Mexicoよ。(1)

未だにMexico熱が冷めずにいる。

沸々とMexicoへの思いを募らせているうちに、はやくも帰国後3週間が過ぎようとしている。なんだってこんなに時が経つのは早いのだ。

このまま何も記さずにあの体験を思い出にしてしまうのは勿体ない。書いてみよう。Mexicoよ。

いつだったかあれは?昨年末か今年の初めだったかに、書家の柿沼氏から連絡をもらった。

「大ちゃん、3月の下旬にMexico行かない?」

「何それ?行く。」

話が決まる時は何でもこんな感じなのかもね。

ちょうど事務所も辞めフリーになり、2月の後半から始まった映画「イン・ザ・ヒーロー」の撮影も3月の上旬で終わる。

身体は軽い。面白そうなものにはいつでも喰いつける。ガブッ。

なんだってタイミングが良い。イン・ザ・ヒーローの役作りで英会話を昨年末からブラッシュアップし始め、完全に海外熱が再発していた。

Mexico。きっと今までに行ったどこの国とも違う色があるはず。何を観るんだろう?誰と会うんだろう?どんなことが待ち受けていて、何を体験するんだろう?この感覚は、15年前に、バッグ一つでインドに飛び出したあの感覚に近いものがあった。あの時僕は、インドに行くのに間違えて世界地図を持って行ってしまったんだぜ。今はそんなことしないんだぜ。チラッとネットで検索したんだぜ。なんせ、今回は仕事だしね。

目的地はメキシコシティーから車で5時間、ベラクルス州、パパンテカ山塊の脇、パパントラの町の南西8kmにある、エル・タヒン。世界遺産に登録されている考古遺跡の一つである。そこで年に一度行われるMexico最大のアートフェスティバルその名も「Cumbre Tajin」(クンブレ タヒン)。そこに日本人として始めて招待されたアーティストが柿沼康二だってわけです。Great。

なんたって調べたら、2012年にはBJORKが、2013年にはZIGGY MARLEY や The Smashing Pampkins 等が参戦しいる。

今年はJack Jhonson にTOOL。えらいこっちゃ。

いったいどんなフェスなんだ?どんな会場が用意されていて、どんな環境なんだろう?Cumbre Tajinのスタッフとも長期にわたってメールでやり取りを繰り返していたが、一向に状況が見えてこない。 時差の影響か、お国柄の違いか、なかなかコミュニケーションが噛み合わない。しかし、柿沼氏。流石だなと感心させられることばかり。どんな事態が起きようとも、どんな環境が待っていようとも、最善を尽くせるようにと、いろんな状況を想定しての準備を怠らなかった。日本とMexicoの文化交流。中途半端なことはできない。

3月19日、柿沼氏と長年柿沼氏のヘアーメイクを担当している(株)ニューロード代表取締役の今泉佑太氏と私で成田に向かう。3人の荷物の総重量は約100キロ。バケツに墨20リットルに巨大な筆、4m×5mの巨大な布が3枚。その他もろもろ、こりゃ二人じゃ無理だったなと今泉氏に早くも感謝。

時間は守ります日本人。2時間前には成田空港到着。しかし荷物が多過ぎ、重すぎでギリギリに。まぁ問題ないでしょと煙草をふかしていると放送が。

「塚原大助さん、柿沼康二さん、今泉佑太さん、至急アエロ・メヒコ搭乗口にいらしてください。」

「なに?今呼んだ?俺達?あれ?もう時間?」

と慌てて搭乗口に向かうと、

「ちょっとこちらへいらしてください。」

と、搭乗口カウンターの奥の別室に連れて行かれる。何事や?なんか変なもん持ってきたんか?

「バッグに入っている大量の黒い物体はなんですか?」

「は?黒い物体?」

「はい。大量の黒い物体が映っているんですが?」

「それは、墨です!!」

かくかくしかじかで大量の墨を持ってMexicoに行くことを力説する柿沼氏。そうか、そりゃそうだ。普通の人はMexicoに大量の墨は持っていかない。それに柿沼氏金髪だし、俺はヒゲ面だし、3人ともでかいし。人相悪いし。黒い物体は怪しい。

柿沼氏の必死の訴えに成田空港の皆さんも納得。いや~驚いたね~とか言いながら煙草をふかす。

搭乗への長いラインも終わり、そろそろ行こうかと搭乗口へ。すると、パスポートが無い。パスポートが何故ない?ここに入れておいたはずのパスポートが?

完全に頭真っ白。しかも柿沼氏と今泉氏は後ろを振り向くことも無く飛行機に乗り込んでいく。僕はパニック。

「パスポートがないと乗れませんか?」

「乗れません。」

「絶対に乗れないんですか?ここまで来たのに?」

「乗れません。」

「だって。。。」

「もう一度探してみてください。鞄の中、服のポケット、ここに来る前にどこにいましたか?トイレには行きましたか?何か食べましたか?」

「煙草もすいましたし、トイレにも行きましたし、カレーも食べました!」

10人ほどのスタッフがちりちりに別れ僕のパスポートを探しにダッシュ。冷や汗。脇汗。ここまで来て。。。

「トイレにはありませんでした!」

「レストランにもないです!」

「喫煙所にもありません!」

終わった。さようなら。まだ観ぬ異国の地。Mexico.

すると一人のスチュワーデスさんが必死の形相で飛行機の中から走って戻って来た。右手にはパスポート!

「ありました!!パスポートありました!!ご友人が持ってましたぁぁ!!!」

「。。。。」

「良かったですね!早く乗ってください!」

「。。。。」

飛行機に乗り込むと、皆が僕の顔を見て笑っている。

「あいつ、パスポート友達が持ってたんだぜ。」

「あいつ、もう少しで乗れなかったんだぜ。」

「あいつ、絶対超焦ったでしょ。」

皆が僕を笑っている。しかし、一番笑っていたのは、俺のパスポートをなぜか自分のパンツのポケットに入れていた柿沼康二。

「何で俺のパスポート持ってんのよ!」

「何で俺が持ってんの!?俺のポッケになんで入ってんの?」

「知らないよ!何で持ってんのよ!俺飛行機乗れないところだったじゃん!!」

「スチュワーデスさんが必死の形相で来て、ご友人がパスポート失くされました!ってお持ちじゃないですか!!て。もう、大ちゃん何やってんのよ~って思ってポッケ触ったら、あれ?って」

「あれ?ってじゃないよ!」

「いや、何で俺が大助のパスポート持ってんのって?」

「知らないよ!何で持ってんのよ!」

周りの乗客もギャハギャハ笑ってる。のっけからこんな感じ。

あら、なかなかMexicoに行かない。。続く。

 

成田に向かう車中。三人黒尽くめ。そりゃ怪しまれるわ。

投稿者:塚原大助本人